生きる力と現場の対応

 文部科学省が発行した「生きる力」なる冊子が、学校から子どもを通じて各家庭に届けられた。
見開きの3頁に「生きる力」とは――知・徳・体のバランスのとれた力と書かれており、以降、今回の学習指導要領の改訂ポイントなど記載されている。
 これらのポイントが現場に於いてきちんと達成されたならば、素晴らしい教育、そして素晴らしい青少年が育成されると思うのだが、果たして文科省が期待していることとが、現場での具現者・要領の実行者である先生方が対応出来るのであるか大きな疑問である。
 財政逼迫の折からハード面の切り詰め。つまり、正規教諭の人員削減、少人数学級を実施して担任になる先生が増えたにも拘わらず増員しない。そして現場の悲鳴が聞こえる地方(県・市)の教育委員会は、独自の財源で加配教員と称して嘱託教諭や非常勤教諭を配置する付け焼き刃的な対応をしている。

今の学校現場における主な問題点は、
1.学力水準の国際的比較での低下、それに伴う授業時間数の増加。
2.応用力の向上や歴史、文化、実技、武道などの充実を図るための授業内容の多様化。
3.家庭の教育力の低下に伴う学校の負担増加。食育から躾まで本来親がしなければならないことまで、学校で請け負ってしまっている。
4.価値観の多様化による様々な児童・生徒の増加とその対応。そしてその親への対応。モンスターペアレンツやヘリコプターペアレンツ(問題があると直ぐ飛んでくる親)の出現。学校と家庭・保護者間の問題の多発化とその問題処理の増加。
5.生きる力といって、体験や総合などの学習の増加。
6.国際化といって、小学校5・6年生から週1時間の外国語授業の開始。本来小学校の教師は英語指導についえては門外漢であるのに、その現状も無視して英語教育の導入。
7.昔はなかった情報教育や環境教育など、新たなる学習分野の増加。

 このように私が児童生徒であった40年前に比べると先生方そして学校の役割は量的に増大、質的にも大きく変化した。それに伴い今回の指導要領の改訂は理解できるが、それに並行して、当然そのハード面:特に先生の増員と質の向上がきちんとされなければならないのに、その対応・施策には全く手をつけつかずの現状で、工夫してやれ!という、ただ保護者受けするようなこのような「絵に描いた餅」、正に上意下達的、中央集権的な改訂に大きな疑問を感じる。
 「生きる力」とはまず現実・現場把握がし、そしてそれに対応する方法、手順を考えることが肝要であると思うが、指導要領を改訂する文科省のお役人こそ「生きる力」とはどういうものかを再度勉強し直すべきではないかと考えるが?